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広田修の書評とエッセイ

日本文学

川上弘美『おめでとう』

おめでとう (新潮文庫) 作者:川上 弘美 発売日: 2003/06/28 メディア: 文庫 川上の小説に出てくる女性は、恋愛において受動的で偶然に身をゆだねていることが多い。男の側の行為を待っていたり、成り行きに身を任せたり、そうしているうちに理由はよくわから…

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫) 作者:川上 未映子 発売日: 2014/10/15 メディア: 文庫 本小説は、あまりにも自明な事実である「人生はイージーではない、困難である」という事実をこれでもかというくらい突き付けてくる。ヒロインはそもそもが社会の周…

上田岳弘『キュー』

キュー 作者:上田 岳弘 発売日: 2019/05/29 メディア: 単行本 上田のこの小説は、超越と包摂を主要なモチーフとしている。第二次世界大戦を中に持っているという女は第二次世界大戦を超越したうえでそれを包摂しているし、最終的に人間が到着する一人の脳内…

小谷田奈月『リリース』

リリース 作者:古谷田 奈月 発売日: 2016/10/18 メディア: 単行本(ソフトカバー) 三島賞受賞作家の古谷田奈月だが、初めはファンタジーノベル大賞でデビューしていたようだ。本作もエンタメ要素の強いSF作品であり、純文学的な作りよりもプロット重視であ…

谷川俊太郎『詩の本』

詩の本 作者:谷川 俊太郎 発売日: 2009/09/04 メディア: 単行本(ソフトカバー) 谷川俊太郎を読んでいたのは20歳くらいの頃だろうか。当時私は詩と哲学が読めるようになればすべての本が読めるようになると思って、詩については角川文庫の谷川俊太郎詩集…

三角みづ紀『隣人のいない部屋』

隣人のいない部屋 作者:三角 みづ紀 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2013/10 メディア: 単行本 本詩集に充満しているのは人間の執着心のようなものだと思う。三角は間柄に依存し、病に依存している。この依存心や執着心が人間の業を表しているようで、とて…

アーサー・ビナード『左右の安全』

左右の安全 作者:アーサー・ビナード 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2007/10/05 メディア: 単行本 この詩集は、生活の中でふと感じられる感慨深いものをエッセイ風に書き留めたものを集めている。著者はアメリカ人であるが、この詩集に現れているのは日本…

斉藤倫『さよなら、柩』

さよなら、柩 作者:斉藤 倫 出版社/メーカー: 思潮社 密林社 発売日: 2014/07/30 メディア: 単行本 斉藤の本詩集はウィットやユーモアに満ちているのだが、それよりも大事なのはこの詩集が愛に満ちているということだろう。斉藤は決して愛に飢えている孤独な…

川口晴美『やわらかい檻』

やわらかい檻 作者:川口 晴美 出版社/メーカー: 書肆山田 発売日: 2006/06 メディア: 単行本 本詩集のタイトルである「やわらかい檻」というのは、まず第一には少女の身体そのものを指すだろう。少女を閉じ込め、それでありながら周囲の世界と溶け合っている…

小海永二『夢の岸辺』

詩集 夢の岸辺 作者:小海 永二 出版社/メーカー: 土曜美術社出版販売 発売日: 2000/06 メディア: 単行本 小海はこの詩集でとりたてた修辞を使っていない。小海は老いの嘆きをまことに真率に、韜晦することなく歌っている。これだけ露骨に嘆かれると何か人間…

干刈あがた『ウホッホ探検隊』

ウホッホ探険隊 (河出文庫) 作者:干刈 あがた 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2017/12/06 メディア: 文庫 80年代当時に発表された小説だが、そのころはまだ離婚が珍しかった。その時世にあえて離婚の問題を正面から取り上げること。この小説はさま…

山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』

いつか深い穴に落ちるまで 作者:山野辺太郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/11/15 メディア: 単行本 本作品は、日本からブラジルまで地球を貫通する穴を掘るという絵空事を、実際に行ってしまったという小説である。このような不可能に近いこと…

武田泰淳『わが子キリスト』

わが子キリスト (講談社文芸文庫) 作者:武田 泰淳 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2005/07/09 メディア: 文庫 本書で武田は聖書に思い切った解釈を施している。キリストには実父がおり、それはローマ兵であり、そのローマ兵がキリストの伝説を作り上げるの…

柳田邦男『妻についた三つの大ウソ』

妻についた三つの大ウソ (新潮文庫) 作者:柳田 邦男 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1993/04 メディア: 文庫 航空機事故や医療技術のノンフィクションで知られる柳田邦男のプライベート・エッセイ集。本エッセイは、一つ一つがそれぞれ一つの記事のように…

柴田元幸『生半可な学者』

生半可な学者―エッセイの小径 (白水Uブックス) 作者:柴田 元幸 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1996/03/01 メディア: 新書 本書は、筆のおもむくままに翻訳にかかわる雑学的知識を披露してくれる。話題は音楽や映画、小説など多岐に及び、英単語や英語の言…

町田康『浄土』

浄土 (講談社文庫) 作者:町田 康 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2008/06/13 メディア: 文庫 町田康の文学は本音の文学だと思う。このように建前がメインの世の中で、ここまであからさまに本音を語られると愉快だし安心する。人間の本音のみじめさ、滑稽さ…

大崎清夏『指差すことができない』

指差すことができない 作者:大崎清夏 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2014/04/11 メディア: 単行本 切実な詩というものは、訴えかける力が強い一方どこか押しつけがましいものがある。自らの体験をじかに伝えるような詩は、確かに説得力があるが同時に重苦…

文月悠光『屋根よりも深々と』

屋根よりも深々と 作者:文月 悠光 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2013/08/10 メディア: 単行本(ソフトカバー) 文月はこの詩集で主に学校を舞台にしながら、みずからの女性性への意識などをテーマに詩を書いている。詩法としては技術的完成度が高く、テ…

別役実『満ち足りた人生』

満ち足りた人生 (白水Uブックス―エッセイの小径) 作者:別役 実 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2001/08 メディア: 単行本 本書で別役は、誕生から葬式に至るまで人生の諸事について一席講じている。それぞれの項において前提や論理がおかしく、全般的に「…

四元康祐『日本語の虜囚』

日本語の虜囚 作者:四元 康祐 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2012/10 メディア: 単行本 「日本語の虜囚」と題された詩集ではあるが、日本語に束縛されている不自由さよりも、むしろ日本語を自由自在にあやつっているという自由さが目立つ詩集である。むし…

杉本真維子『袖口の動物』

袖口の動物 (新しい詩人) 作者:杉本 真維子 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2007/11 メディア: 単行本 杉本の本詩集は文体的な完成度が非常に高い。緊密に練られたテクストは硬質で隙がなく、読む者に心地よい感動を与える。そして、文体と内容は互いに影…

岡本啓『絶景ノート』

絶景ノート 作者:岡本 啓 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2017/08/03 メディア: 単行本 本詩集に特徴的なのは、生きる根拠や哲学が喪失されている点、それに反比例するように生活世界が重視され、ひたすら現在を生きる快楽を歌い上げている点であろう。現…

大岡昇平『武蔵野夫人』

武蔵野夫人 (新潮文庫) 作者:大岡 昇平 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1953/06/09 メディア: 文庫 武蔵野を舞台に繰り広げられる愛欲劇。人妻の道子はいとこで復員してきた努と恋愛関係になる。そのほかにも道子の夫秋山が人妻の富子と不倫をしたり、登場…

川上弘美『なめらかで熱くて甘苦しくて』

なめらかで熱くて甘苦しくて (新潮文庫) 作者: 川上弘美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/07/29 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る 本短編集で川上は人生を感覚的に語っている。それこそ、人生とはなめらかで熱くて甘苦しいのだ。人生…

島田雅彦『そして、アンジュは眠りにつく』

そして、アンジュは眠りにつく (新潮文庫) 作者: 島田雅彦 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2000/07 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 2回 この商品を含むブログ (4件) を見る 9編からなる短編集。ノスタルジックな少年時代の話や、少年時代の性の話、…

加藤思何理『花あるいは骨』

花あるいは骨 作者: 風森さわ 出版社/メーカー: 土曜美術社出版販売 発売日: 2019/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 詩的であることと具体的であることはしばしば衝突してきた。具体的に書けば書くほどテクストは小説に近づいていく。抽象…

長谷部裕嗣『箱の中の森』

箱の中の森 作者: 長谷部裕嗣 出版社/メーカー: grambooks 発売日: 2019/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る この詩集には長谷部の美学が多分に反映されている。芸術的な美学というより生きることの美学である。詩の主体はハードボイルドな…

坂多瑩子『さんぽさんぽ』

さんぽさんぽ 作者: 坂多瑩子 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2019/08/01 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 坂多の詩には家族や田舎が良く出てくる。家族の匂いや土の匂いが濃い詩集である。生まれ故郷を散歩していると、至る所に異次元への入…

村田沙耶香『私が食べた本』

私が食べた本 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2018/12/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書は村田が雑誌などに掲載した書評と主に芥川賞受賞近辺のエッセイを収めている。村田の書評の書き方は、印象批評の一種で…

はあちゅう『旦那観察日記』

旦那観察日記?AV男優との新婚生活? 作者: はあちゅう 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス 発売日: 2019/02/22 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る ブロガー・作家とAV俳優とのなれそめ、結婚、新婚生活について主に妻の立場…