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広田修の書評とエッセイ

別役実『満ち足りた人生』

 

満ち足りた人生 (白水Uブックス―エッセイの小径)

満ち足りた人生 (白水Uブックス―エッセイの小径)

  • 作者:別役 実
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2001/08
  • メディア: 単行本
 

  本書で別役は、誕生から葬式に至るまで人生の諸事について一席講じている。それぞれの項において前提や論理がおかしく、全般的に「規範を犯すことはよいことだ」、そして規範を犯す快楽が「満ち足りた人生」を生み出す、といった論理が繰り返される。屁理屈や人間の裏の部分などを表面に浮上させ、ここには人生の裏の部分が良く描かれている。

 規範を犯すこと、例えば窃盗を行ったり不倫をしたり離婚をしたり、そういうものは通常に考えれば避けるべきことだし、実際に行ったら社会的非難も自責の念も強い。そんなことをしなくとも、当たり前の幸せを追求するだけで「満ち足りた人生」は実現するはずだが、実はそうではないんだというのがこのエッセイの趣旨であろう。規範を犯すスリルや悪の快楽、それこそが人生を真に満たすのだ、という人生の裏側の論理が示される。とても刺激的だった。