坂多の詩には家族や田舎が良く出てくる。家族の匂いや土の匂いが濃い詩集である。生まれ故郷を散歩していると、至る所に異次元への入り口がある。故郷とはいまだに魔術的な世界であり、そこでは散歩によって立ち現れてくる様々な隙間があるのだ。散歩とは意識が斑になる歩みだ。何かを考えて風景を忘れたり、風景の一部分に強く惹かれたり、人の心は散歩によってちぐはぐに飛び飛びになる。この散歩のまだら加減をこの詩集はよく表している。割と飛躍や転換の多い詩集であるが、それは散歩の途中で何かを思い出したりひらめいたりするのによく似ている。詩集自体が散歩でできているのだ。
この詩集はとても懐かしい感じがする。いわば子供の頃に読んだ童話のような詩集だ。そこにはまだ不思議なことがたくさんあったし、なによりも土の匂いがした。誰もが出発点とする土の匂い、これはとても懐かしく、そして無量の内容を含んでいると思う。