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広田修の書評とエッセイ

山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』

 

いつか深い穴に落ちるまで

いつか深い穴に落ちるまで

 

  本作品は、日本からブラジルまで地球を貫通する穴を掘るという絵空事を、実際に行ってしまったという小説である。このような不可能に近いことを小説にするのは非常に難しいように思われる。だが、山野辺は歴史の力を借りることで、フィクションに現実感を持たせる努力を惜しまない。日本からブラジルまで穴を掘ることについて様々な文脈を付与し、その文脈には実際の歴史も多分に組み込まれている。そうすることで、フィクションがあたかも現実に近づいていくように思えるのである。

 日本ブラジル間の穴について、発案者にまつわるエピソードを多分に盛り込み、そこから戦争やその他の歴史的事項を小説の中に組み込み、広報係としての主人公の勤務内容なども詳細に描くことで、フィクションにどんどん現実の化粧が施されていく。ありえないことがあたかもあり得ることのようにどんどん描かれていく。フィクションをいかに現実的に見せるか、という点に特化した作品だといえる。