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広田修の書評とエッセイ

小谷田奈月『リリース』

 

リリース

リリース

  • 作者:古谷田 奈月
  • 発売日: 2016/10/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  三島賞受賞作家の古谷田奈月だが、初めはファンタジーノベル大賞でデビューしていたようだ。本作もエンタメ要素の強いSF作品であり、純文学的な作りよりもプロット重視である。同性愛者が大多数をなし、同性愛を擁護する制度が定着している国家を舞台に、テロリストや記者が活躍する。テロリストは異性愛者であり、現体制に異議を述べる者であるが、表面上のテロの裏には政権に取り入って精子バンクを占領しようという意図があった。記者はテロの真相に迫り、テロリストの真意を暴こうとする。

 本書を読んで感じた快楽は、アクション映画を観たときに感じる快楽に近い。とにかくみんな行動をする。しかもだいたいが破壊や支配をもくろむ行動である。ものというよりは制度を破壊していく快楽、国家を支配しようとする快楽、真実を暴こうとする快楽、そのように、今あるものを破壊していく快楽に彩られている。行動が主体となっている小説にはこのような快楽がつきものなのだ。