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広田修の書評とエッセイ

今年

 さて、新しい年になりました。今年も、自分の至らないところを省みつつ、良き父親、良き夫、良き社会人として日々他人のために生きていこうと思います。まじめに正しく生きること。それに尽きます。家族には迷惑をかけてばかりなので、家族サービスもよく行う。ひたすら実直に生きること。

今年のまとめ

 さて、もう今年も終わりです。今年は本を127冊読み、詩を30編書き、エッセイを3編書きました。お仕事については、職場の体制が窮していたときにできなかったことを再開したり、引継ぎ用のマニュアルを作ったり、規定の改正を行ったり、充実していました。子どもは4歳になり、ユーモアを解するようになり、友達もできました。成長がまぶしいです。今年は職場のトラブルに起因してある社会問題に巻き込まれ、だいぶ人権を蹂躙されました。私にも非はありますが、私と家族の甚大な損害はとても許されることではなく、この社会問題の解決に今後も取り組んでいきたいです。

ハン・ガン『少年が来る』(クオン)

 ハン・ガンは本作において、命を失うほどの物理的暴力を被る人々を描いている。これは、人間としてはなるべく見たくない社会の深淵であり、できれば目をそむけたくなる現実だ。だが、ハン・ガンはその悲惨さを共に苦しみ、共に悲しみ、鎮魂のためにこのような作品を書いた。いわばこの作品は供養の作品であり、死んでいった人々などが安らかであることを祈っている作品である。

 鎮魂としての文学、供養としての文学。だが、単なる鎮魂や苦悩ではなく、その暴力被害を生々しく描くということ。それによって、読者には少なからぬ衝撃が与えられる。読者もまた鎮魂や供養にいやおうなく巻き込まれていき、多くの人間による共苦が生じる。我々に必要なのはどこまでも遠く続いていく優しさだ。死んでいく人々が安らかであることを読者共同体が祈ることとなる。

燃え殻『これはいつかのあなたとわたし』(新潮社)

 成熟した大人のエッセイ。人生経験をたくさん積み、たくさんの傷を負い、酸いも甘いも味わい尽くした著者による人間を俯瞰したエッセイ集だ。燃え殻は統合力、総合力において優れていて、自分の人生を高い地点から総合したうえで、読者にとって心に刺さるであろうエピソードをその抜群のセンスで選んできて抜群のセンスで語る。人間が成熟することで得られるセンスを最大限に活かしている。

 燃え殻の著作はずっと追ってきた。どれを読んでも、実社会で生きる生身の人間の悲喜劇が絶妙な手つきで語られている。人間の弱さを決して隠さず、柳のようにしなやかに生きていく、運命は避けられないものとして受け入れる、何もかもわかっていても口にしない、そういう成熟した大人による極上の味わいのエッセイ集だ。

ハン・ガン『菜食主義者』(クオン)

 本作では、おそらく精神障害と思われる理由で菜食しかしなくなった主人公を軸に話が展開される。主人公はどんどん体調を悪化させ孤立していき離婚にまで至る。そのように、主人公の社会的な立場はどんどん悪くなっていくわけであるが、そのような主人公も映像作品の主役として芸術的には重要な役割を果たすことができる。芸術の領域が社会の領域から一定の距離を持ち自律していることがうかがわれる。

 このように、人間としての価値、社会的な価値、そういうものが希釈されていく中で、その人の芸術的価値はむしろ濃くなっていく。芸術には、そういった論理や倫理とは別の次元の価値基準があり、それは論理や倫理には回収できない独自の次元を切り開いている。そういうことを改めて気づかされる作品だった。文学作品としての出来は超一流であり、数々の賞に輝いたのも納得する。

ミラン・クンデラ『冗談』(岩波文庫)

 本作は、ミラン・クンデラのデビュー作である。この小説を読んで感じたのは、徹底的に俗事を書いていることの潔さである。小説に詩的要素が含まれている時に感じるのは、小説がどこか俗事を超越した次元まで描いていることだが、この小説にはそうした聖なるものや美なるものに接近しようとする意図を感じない。徹底的に俗であることにより生じる純粋な娯楽を追求しているかのようだ。

 小説における美の問題や聖と俗の問題は難しい。小説が近代的な美を追求していなくても、また小説が聖なるものと近接していなくても、それは十分小説として成り立つ。つまり、美や聖は小説の必要条件ではない。だが、小説は美や聖を取り込むことでその豊かさを獲得してきた。徹底的に俗に徹することにより生まれるものはいったい何と名指したらよいのか、それが難しい問題だ。

 

 

 

長引く風邪

 風邪が長引いています。そんなにひどい症状ではありませんが、咳や鼻水が一向に止まりません。体力もまだ不十分な状態です。

 もう2週間も風邪をひいているので、これはもうほかの病気かもしれません。それともストレスで自律神経や免疫力がダメになっているのか。

 まだまだ体調不良は長引きそうです。病休にならないことを祈ります。