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広田修の書評とエッセイ

島田雅彦『そして、アンジュは眠りにつく』

 

そして、アンジュは眠りにつく (新潮文庫)

そして、アンジュは眠りにつく (新潮文庫)

 

  9編からなる短編集。ノスタルジックな少年時代の話や、少年時代の性の話、現代と過去が入り乱れるような奇抜な設定の話、と多彩なラインナップである。ここには、作家の精神の自然な流露として書かれているものと、作家のアイディアによって実験的に書かれているものが結構はっきりと分かれながら混ぜ合わさっている。とにかくいろいろと試行錯誤をした跡がこの作品集から伝わってくる。

 また、この作品集はユーモアで満ちている。これは島田の資質だと思うのだが、人間を描くときにその愛すべき面を描かずにはいられないようである。だから、この作品集の登場人物には島田の愛がすごく詰まっているように思われる。小説を書くということは、その一筆ごとに人間を愛撫することなのかもしれない。小説によって細かく描写し人物造形する手つきに作家の愛情は詰まっている。