本小説は、あまりにも自明な事実である「人生はイージーではない、困難である」という事実をこれでもかというくらい突き付けてくる。ヒロインはそもそもが社会の周縁で困難を生きているフリーの校閲者であるし、ヒロインの仕事仲間も、非常に強気ではあるが周りからの評価は芳しくない。ヒロインの恋人となる年上男性も、悠々とした態度を見せながら実は肩書を偽っていた。ヒロインの同級生も幸福そうな結婚生活を営みながら実は夫が不倫をしている。
かくも人生は困難に満ちている。順風満帆に進んでいる人間なんてごく一握りに過ぎない。みんながみんなそれぞれの挫折と痛みを生きている。そのようなごく当たり前の事実をいまさらながら再認識させてくれる小説だった。もちろん人生には幸福もあるが、それと等量の不幸がある。あまりにも当たり前の事実を真っ向から取り上げているのがかえって新鮮だった。