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広田修の書評とエッセイ

岡本啓『絶景ノート』

 

絶景ノート

絶景ノート

  • 作者:岡本 啓
  • 出版社/メーカー: 思潮社
  • 発売日: 2017/08/03
  • メディア: 単行本
 

  本詩集に特徴的なのは、生きる根拠や哲学が喪失されている点、それに反比例するように生活世界が重視され、ひたすら現在を生きる快楽を歌い上げている点であろう。現代の若者に過去の文学者のような実存の悩みなど不要であり、それよりもいかに現代の生活の雰囲気をくみ取り、それを心地よい言葉としてアウトプットしていくか、そちらの方が重要なのだ。ここに歴史や伝統はいらないし、必要なのは鋭敏な皮膚感覚のみだ。今現在まさに流れている空気の方向と温度を知るということ。それが問われている。

 詩は時代の先端を映しとるメディアである。小説や戯曲よりもその傾向は顕著である。現代詩も難解になって閉塞した時代が終わり、再び多くの人たちに訴求していくメロディーを手に入れたのではないだろうか。少なくとも岡本のこの詩集は女子高生に読ませてもよい反応が返ってくるはずだ。そこにはかつての難しい文学の片鱗もない。文学はよりポップに、より歌いやすく、より時代の空気感を反映していくのである。