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広田修の書評とエッセイ

小海永二『夢の岸辺』

 

詩集 夢の岸辺

詩集 夢の岸辺

 

  小海はこの詩集でとりたてた修辞を使っていない。小海は老いの嘆きをまことに真率に、韜晦することなく歌っている。これだけ露骨に嘆かれると何か人間の業であるとか、浅さ深さ両方深めた人間そのものの肖像が見えてくる。かといって決してありきたりな表現になっているわけではなく、そこには小海の思考の強度が反映されている。

 老いの嘆きのほかにも、これまでの辛い人生を振り返ったり現代社会を批判したり、ここには気どりも修飾も何もない人間そのものが表現されている。このように素の自分をどこまでも露骨に出していくことが小海の修辞だったのかもしれない。修辞を使わないという修辞を小海は意図的に使っているのだと思われる。

 それにしても迫力のある詩集だった。心の底から沸き起こってくる叫びを記しているので、鬼気迫るものを感じた。