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広田修の書評とエッセイ

アーサー・ビナード『左右の安全』

 

左右の安全

左右の安全

 

  この詩集は、生活の中でふと感じられる感慨深いものをエッセイ風に書き留めたものを集めている。著者はアメリカ人であるが、この詩集に現れているのは日本風のわび・さびといった幽かな趣深さである。我々読者はこの詩集を読んでその淡い抒情に共感する。奇抜なものなど何もなく、ただ淡々と生活の感慨深さがつづられている。

 アメリカ風の無駄を排したプラグマティックな文体に、日本の精神であるところの幽玄の抒情が加わって出来上がった詩集のように思える。アメリカと日本という二つの精神風土が融合してできあがった面白い詩集だ。共感に訴える詩集というものは勢い陳腐になりがちだが、この詩集は生活の中の微妙な感慨を扱っているため、陳腐になることから免れている。