albatros blog

広田修の書評とエッセイ

杉本真維子『袖口の動物』

 

袖口の動物 (新しい詩人)

袖口の動物 (新しい詩人)

 

  杉本の本詩集は文体的な完成度が非常に高い。緊密に練られたテクストは硬質で隙がなく、読む者に心地よい感動を与える。そして、文体と内容は互いに影響し合う。特に訴求力の点で本詩集は文体的完成度が内容を広げていて、ここで取り上げられている「ころす」などの暴力的モチーフも、その意味的広がりであるとか時間的広がりをより大きく広げていると思う。暴力は些細な言い争いかもしれないし大殺戮かもしれない。そしてそれは現代のものかもしれないし過去から連綿と続くものかもしれない。文体的な強度を持たせることにより、モチーフの広がりを強めていくというのは詩の特権的なレトリックであろう。

 この硬い表層から深部へと到達するのは難しい。杉本の深部において何が起こっているのか推し量るのは容易ではない。そのくらいテクストが緊密に織られていて、杉本の匿名性が高まっている。この匿名性から語り出すということには幾種もの困難が伴うように思う。