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広田修の書評とエッセイ

柴田元幸『生半可な学者』

 

生半可な学者―エッセイの小径 (白水Uブックス)

生半可な学者―エッセイの小径 (白水Uブックス)

 

  本書は、筆のおもむくままに翻訳にかかわる雑学的知識を披露してくれる。話題は音楽や映画、小説など多岐に及び、英単語や英語の言い回しに関するちょっとしたティップスに加え、そこから気ままに連想されたウィットに富んだユーモアが示される。

 エッセイの中では飛躍が多い部類ではないだろうか。翻訳にまつわるティップスを語る際や、そこからあれこれと連想する際、柴田はなかなか大胆な飛躍的展開を行う。そこに柴田の学者としての知性があるのだろうが、このエッセイの面白さの肝をなすのもその機転の利いた大胆な飛躍なのだと思う。

 別に本書に現れる知識を覚える必要はないと思うが、翻訳者・学者としての柴田元幸の脳の中にある百科事典の中に紛れ込んでしまった、その快楽を楽しむ本だと思う。