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広田修の書評とエッセイ

長谷部裕嗣『箱の中の森』

 

箱の中の森

箱の中の森

 

  この詩集には長谷部の美学が多分に反映されている。芸術的な美学というより生きることの美学である。詩の主体はハードボイルドな男であり、さまざまな状況と直面してはその状況と戦っている。とはいってもそこにはしなやかな感覚も十分に表れており、しなやかなハードボイルドという趣である。詩の主体は孤独でありながら感じやすく、意志の力で状況を打開していく。ところどころ現れる不条理な状況は、まさに人生で降りかかる様々な不条理、人間関係や災い、社会との関わりにおける不条理を反映しているのだろう。長谷部はそのような不条理と渡り合うだけのしなやかな孤独を持ち合わせている。

 詩としては散文性が強く、描写が多いのが特徴である。このような具体志向を私は好ましく思うし、それでありながら散文は少しも退屈ではない。散文に詩的強度をまとわせる技術に長けていて、見習いたいところである。