albatros blog

広田修の書評とエッセイ

町田康『浄土』

 

浄土 (講談社文庫)

浄土 (講談社文庫)

  • 作者:町田 康
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/06/13
  • メディア: 文庫
 

  町田康の文学は本音の文学だと思う。このように建前がメインの世の中で、ここまであからさまに本音を語られると愉快だし安心する。人間の本音のみじめさ、滑稽さ、人間の本来の姿のみじめさ、滑稽さをここまで露骨に描く作家を私は知らない。

 もちろん、人々が本音を出し合う世の中はアナーキーである。そこでは規範が順守されないし秩序が保てない。だから本音の世の中は崩壊し、本音を語る人々は堕落していく。そのような崩壊と堕落についても滑稽に描き出すのが町田の文学だ。

 本音といっても、非常に幼稚で生理的なものから、かなり哲学的で長ったらしいものまである。どちらもまぎれもなく人間の本音であり、いずれも規範を守ろうとしない点では共通している。町田の描く本音にはかなり哲学的なものが混じっていて面白い。