albatros blog

広田修の書評とエッセイ

甘燿明『真の人間になる』

 台湾原住民族の主人公が、第二次世界大戦の時期、日本軍の占領のもと少年時代を送ったり、敗戦後に米軍の墜落機を捜索したりする怒涛のドラマである。台湾原住民に伝わる神話の話、台湾原住民の宗教とキリスト教や仏教との関係、台湾にも輸入された野球への取り組み、少年同士の親密な交わり、そういうものが詰め込まれていて、台湾の作家ならではの土着性が強い物語である。

 スケールが大きく、また戦争を扱ったものでドラマチックであり、緻密に構成され描写も繊細で、文学作品としての価値が非常に高いと思った。今年読んでよかった小説の今のところナンバーワンかもしれない。台湾にはこのような人々がいてこのような歴史があった。それを知るだけでだいぶ違う。