albatros blog

広田修の書評とエッセイ

青山七恵『お別れの音』

 

 読後感がさわやかで魅力的な短編集である。登場人物たちの何気ない日常を描きながらも、そこに突っかかるものをプロットとして用意している。このちょっとした違和感のようなもの、これこそがそれぞれの短編の魅力を増していて、小説を小説たらしめているものである。

 書かれた時代は今からすると若干古い。だがこの若干の古さというものも面白い。小説がいかに時代環境を写し取っているかよくわかる。だがいかに時代環境が違えども、生きている人間たちの感じ方や考え方にそれほど違いは感じられない。普遍的な人間たちの小さな違和感、それを大事にしている作品集だ。

 あと、この短編集は巧まれざるものとして書かれた感じがすごくする。青山の自然な筆の運びで生まれたような自然な構成をしているのだ。このさっぱりした感じ、変に凝らない感じ、それでもしっかり魅力的な作品を生み出してしまう感じ、そこに青山の小説家の天賦の能力を感じる。