albatros blog

広田修の書評とエッセイ

多和田葉子『献灯使』

 

 多和田葉子は言葉の新奇性を追求しているかのように思える。その意味で多和田は詩人に近く、実際に詩を書いてもいる。本作において多和田の言語の新奇性への追及は記述の角度と世界の構成いずれにも及んでいる。描写において新しい角度から記述しようとすることにより、変幻自在な比喩や視点が生まれている。一方で、世界の構成にアイディアをめぐらすことにより、新奇な世界、SFに適した世界が生み出されている。

 多和田は鋭敏な知性の持ち主であり、常々新しいアイディアを探求し実際に生み出している作家である。この作品は震災後の遠い未来を想定しているが、その世界造形の特異さには驚嘆するし、ディテールへのこだわりにも驚嘆する。とにかく注目すべきで作家であることは間違いなく、これからもたくさんの新奇な小説群を生み出すことを期待している。屈折が屈折を呼ぶ、読んでいてざわざわする密度の高い優れた小説だった。