フランスから見て東方、アジアや東欧に材を取った説話的な短編小説集。中には源氏物語に材を取ったものもある。ここに見て取れるのはユルスナールの文学的歴史的教養である。アジアの伝統的な文学についての教養であるとか、アジアの歴史についての教養であるとか、そういうものに基づいてこの短編集は書かれている。作家に教養は必要であり、教養が作品世界を広げるのである。
「綺譚」とあるだけあって、奇妙であったり神秘的であったり美しかったり、作品の話としての作り込みが見られる。東方を下に見ているのではなく、むしろ本作に見て取れるのは東方への憧憬のようなものであろう。東方にははかりしれない文学の源泉が眠っているという意欲的な作家の心の働きが感じ取れる。作家の果てなき文学的探究は東方へと、過去へと向かい、このように美しい短編集を作り出したのである。その際文学的教養は必須であった。