albatros blog

広田修の書評とエッセイ

エルフリーデ・イェリネク『死と乙女 プリンセスたちのドラマ』

 

死と乙女 プリンセスたちのドラマ

死と乙女 プリンセスたちのドラマ

 

  なんともとらえようのないカオティックで多面的な作品である。戯曲の形式をとりながら詩や哲学がふんだんに取り込まれている。この分野横断的で意欲的な作品は、死と乙女という難しいテーマに挑む際に必然的にこのような形式をとったのかもしれない。これだけの複雑な構文と複雑な比喩でしか死と乙女のカオスには迫れないのかもしれない。

 意味をとることは容易でないし、意味をとることは初めからあきらめた方がよいかもしれない。それでも全体的なテーマや、なによりも創作の活力、エネルギーが伝わってくる作品である。創作の際の犀利な頭脳のひらめきがそのまま伝わってくる、その高揚がそのまま読者の高揚となるような、そのような作品である。

 逸脱に逸脱を繰り返し、本質を何重にも迂回しながら、そうでしか語れない本質というものはあるのかもしれない。簡潔には表現しきれないものを言葉数多く遠回りに詳しく語っていくということ。一つの語りのパターンかもしれない。