albatros blog

広田修の書評とエッセイ

デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』

 老いや病、死といったテーマをユーモアを交えながら描いている。予兆された不幸な未来として、重く鋭く刺さってくる作品が多い。そのようなテーマを扱いながら、ユーモアにより人生の毒を解毒しようとするが、結局はユーモアの限界を示しているのではないだろうか。ユーモアによってもなお解消されえない病や詩といったものの不可避性を描くことで、文学作品におけるユーモアの限界を暗に示しているものと思われる。

 短編はどれも丹念に描きこまれ、読み応えのあるものだ。それぞれが指し示す人生の暗部がとても重たく、ユーモアによってももはや救済されないほど手おくれだ。It's too lateなのである。このtoo lateな状況を描き続けるということ。その描くこと自体はまだtoo lateではない。作家は、死を前にして、とにかく迫りくるものの圧倒的な力を描きたかったのではなかろうか。それはユーモアによっても回避されえないが、それを示すことには成功している。