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広田修の書評とエッセイ

絲山秋子『薄情』

 

薄情 (河出文庫)

薄情 (河出文庫)

 

  主人公は群馬の神社を継ぐために東京の大学を出て地元に戻ってきた30代の若者だ。主人公はまだ精神的なよりどころを見いだせていないまま、アルバイトをしたり神社の仕事をしたり女性と付き合ったりしている。主人公の寄る辺なさは、まだ未婚であることや職業の不安定さにも起因するが、やはり地方と大都市のはざまで揺れ動いているということもあると思う。

 現代、東京一極集中の時代は終わりつつあり、地方で暮らす若者が増えている。だが、その移行はまだ完全ではなく、東京の方が良い職や良い出会いにありつけたりして、地元で暮らす魅力との間で葛藤を抱く若者は多いと思う。主人公のよりどころのなさは、一つにはこの移行期とも呼べる大都市から地方への生活圏の移行が葛藤をはらんだものであることが原因となっている。

 現代の地方暮らしの若者の葛藤を描いているという意味で大変面白く読んだ。