albatros blog

広田修の書評とエッセイ

安堂ホセ『ジャクソンひとり』

 

 現代の東京に住むブラックミックスたちの物語。この作品は文体は日本語であるが、スピリットは黒人である。本来なら翻訳調の文体で読むはずの内容が日本語で書かれている。この作者のスピリットは、乾いていて行動的で熱狂的であり、湿っていて思索的で沈着な日本の精神とは異なる。作者は日本人と黒人の混血であると同時に、作品は日本語と黒人スピリットの混血であるのだ。

 この独特なねじれた関係にある作品を読むということは不思議な感覚を生み出す。これこそが混血児の書く作品の特徴なのかもしれない。複数の文化を根本的に内在した人間の書く物語の異様さや不気味さ。それと同時に、そのような人間にしか書けない独特の雰囲気。そういうものを味わえる稀有な作品だと思う。そして、ジャクソンはひとりではない。日本社会にはこのような複数の文化のネイティブがたくさん生きていてコミュニティを形成している。そういった日本社会の在り方も示す作品であろう。