albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ベルンハルト・シュリンク『別れの色彩』

 シュリンクの文体はとても厳密で力があり、文章を読むだけで快楽を感じるほどである。彼の文体は一つ一つの出来事を冷酷に切断するような決然とした様があり、それが本書の「別れ」というテーマと見事に合致している。老いと別れを主に扱う本作であるが、そのような冷酷な現実というものを描くのにまさに適した筆致と言えよう。

 シュリンクの他の作品もぜひとも読みたくなるような、それほど文体的な完成度の高い作品だった。もちろん人生への洞察も深い。冷厳な文体で冷厳な現実を描くことの巧みさ。それを最大限に発揮しているのが本作であろう。