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広田修の書評とエッセイ

ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』

 

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)

 

  2011年ブッカー賞受賞作。思索的で香気のある文体をもつ純文学でありながら、筋の展開はミステリーである。思うに、純文学はなるべく現実を模倣する。たとえフィクションであっても現実らしく書くのが純文学の在り方だと思う。それに対してミステリーは「小説のように奇なる」事実を書く。つまりミステリーは現実にありそうにないこった筋の展開を書くのである。だから、この小説は一方的で純文学的な現実志向のベクトルを持ちながら、他方でミステリー的な現実乖離のベクトルも持つ。その間でバランスを取っているのが本小説の見どころだろう。

 初めは青春小説のようでありながら、途中から老境の心境を描き始める。そこに謎解き的要素のプロットが重ねられる。多様な要素が詰め込まれた読みごたえのある作品である。これだけ構築的な作品を書くには相当な構想が必要だったと思われる。