albatros blog

広田修の書評とエッセイ

2019年の本ベスト10冊

今年読んだ本の中からよかったものを10冊紹介します。

 

1.中森弘樹『失踪の社会学

 失踪という現象を手掛かりに、親密な他者への責任が逃れがたい拘束力を持っている現代の精神性を明らかにしている。力のこもった学術書である。

2.アナトール・フランス舞姫タイス』

 キリスト教信仰と肉欲の問題を正面から取り扱っているスリリングな作品。古典と呼びならわされるだけの格調高い完成度を保っている。

3.鈴木透『食の実験場 アメリカ』

 アメリカの食の歴史を解き明かすことで、その混血的性格を明らかにしてく。新書ながら重厚で完成度の高い見事な一冊。

4.ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争

 崩壊している下層イギリス社会の実態をエッセイの文体で描く。日本にとっても決して他人事ではない切実な問題がたくさん。

5.ボフミル・フラバル『厳重に監視された列車』

 小説としての広がりが素晴らしい。多様な要素をここまで飲み込んでしまう技量にひたすら脱帽した。

6.佐藤卓己『流言のメディア史』

 流言の観点からの浩瀚なメディア史。この本も新書のレベルを超えている。こういう新書がどんどん増えてほしい。

7.山崎亮『コミュニティデザインの時代』

 まちづくりを設計するコミュニティデザイン。設計の分野からこちらへと移行したというのが面白い。現代の新しい思想がここには見える。

8.上田岳弘『ニムロッド』

 世界観で読ませる作家。この芥川賞受賞作も、ビットコインやダメな飛行機などのガジェットを用いて硬質な世界観を描き出す。

9.三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』

 これも新書のレベルを超える。政党政治、資本主義、植民地帝国、天皇制の観点から日本の近代を検証する。

10.穂村弘『にょっ記』

 穂村弘のクスっと笑ってしまうエッセイ集。穂村の人柄や才能が如実に表れた一冊。