albatros blog

広田修の書評とエッセイ

赤坂真理『箱の中の天皇』

 

 本作は、主人公が変幻自在にいろんな登場人物に成り代わり、かつ時代も超えていくというプロットではあるが、プロット自体は重要なのではなく、結局は天皇について批評したいのだと思う。天皇がどのような存在であるかについて、その概念の在り方について批評的言説をものすのに、あえて小説の形式をとったものである。

 だから、小説的には面白いと言えば面白いが、どちらかというと粗さが目立つ。それよりも、天皇が象徴であるとはどのようなことかについて著者が思想を開陳するところの方が面白い。小説でありながら、小説であることを半ば捨てて、批評を前面に出す。ハイブリッドなつくりの作品なのだと思う。

 なお、赤坂は批評活動も旺盛に行っており、そちらの作品もぜひとも読みたいと思っている。小説家としての赤坂というよりも批評家としての赤坂に興味を持たせる、そんな作品だった。小説家よりも批評家の方が本人は望んでいるのかもしれない。