フランスの小説を紹介しながら、それをフランスの風物の中に溶け込ませていくという一種独特のエッセイ。書物を取り上げながらもそれを批評するというわけではなく、むしろその書物と共に生きる作中主体の小説的語りがつづられる。書物を通じてパリの郊外の風景が違ったふうに見えてくる。書物を読むことによりパリについて新たな発見がある。しかもそのパリでの発見は虚構の作中主体の語りなのである。
この、書評のようでありながらエッセイのようでもあり小説のようでもある奇妙な書物は、それでも堀江の緻密な語りや香気をまとった文体により美しく仕上げられている。展開に若干無理を感じるところもしばしばあるが、何となく成立してしまっているところが面白い。他分類書は少ないと思われるが、ここに堀江敏幸の出発点があるのかと思うと面白い。書評なんかよりエッセイや小説の文体に引っ張られていってしまうのが彼の資質だったのだろう。