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広田修の書評とエッセイ

リチャード・バック『イリュージョン』

 

イリュージョン (集英社文庫)

イリュージョン (集英社文庫)

 

  本小説のテーマは人間の自由である。ドンは救世主でありながら救世主であることをやめた、自らの自由のために。その元救世主と主人公は濃密な時間を過ごすのである。人間が自由であるためには世界はイリュージョンでなければらない。つまり、人間はその自由によって世界を作りかえることができるのでなければならない。世界がイリュージョンだということは世界が可塑的であるということだ。それは人間が自由な意思によって作りかえることのできるものでなければならない。

 だが現実というものは強固で変革に時間がかかる。いくら個人が自由を訴えたところでイリュージョンほど可塑的に変わるものではない。それを踏まえた上であえて現実をイリュージョンとしてとらえるところにリチャード・バックの勇気を認めたい。この小説には社会的なものがほとんど出てこない。社会というものはむしろ変革が難しいものだからだ。だがそういうものも勇気を出して変えていけ、人間の自由を最大限に稼働して、そんなメッセージを受け取る。