明治時代、名だたる文学者の家を訪問して話を聞き、その文学者から受けた第一印象でもってその文学者の人格批評をした本である。当時『新潮』誌で大好評だったらしく、確かに読んでいて面白い。何が面白いかというと、どこか作品の真実が暴かれるような気がするからである。小説作品は背後に作者の存在を控えていて、その作者を深く知ることがその作品の「真実」に近づくことだと思われる節がある。小説作品だけを知っていてもそれを書いている人の人柄が分からないことはあまりにも多い。そこを明らかにしてくれるだけで読者にとっては垂涎物の批評となるのだ。しかもその批評は舌鋒鋭く身もふたもなく、外見から内面に至るまで微に入り細を穿つ批評なのだ。もちろん中村の誤解は多分にあると思うが、ここまで実際に作者と会った人間が詳しく人格批評をするとそこに何らかの真実が表れていると思わざるを得ない。そういう意味でとても興味深かった。