albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ムージル『寄宿生テルレスの混乱』

 人生を微細に感受し微細に表現したみずみずしい作品。若さゆえの感受性の鋭さと混乱があり、その機微をとらえているところに作品のひらめきを感じた。文学者の資質というものは、まさにこの人生を丁寧に感受し、それを丁寧に言語化することによって鍛えられていく。感受性が鋭いほどそれを表現する言語も鋭くなるし、言語化によって己を鍛えていくことで、感受性もまたカルティベイトされる。文学者の資質というものはこういう基本的なところで形成されるのだと思う。

 ムージルは25歳でこの作品を書いているが、この時点で文学者の資質を形成する上で重要な作品を書いたと言える。若くて感受性が独特であるときに、その感受性を言語化することは後々の作家人生において極めて重要である。このようにして、言語と感受性が循環的にカルティベイトされていくところに文学者の人生というものは存在するのであろう。ムージルの文学者としての重要なスタート地点だった。