albatros blog

広田修の書評とエッセイ

九段理江『東京都同情塔』

 「政治的人間」とでも呼ぶべき建築家が主人公の小説。至る所にちりばめられてある政治的なタームの洪水が面白い。これはおそらく主人公が数学が得意なことと関係している。数学的に社会をとらえるとそれは社会科学的な認識となり、特に政治的な認識となっていくのかもしれない。通常小説で論理が用いられるとき、それは哲学に偏りがちだが、この小説では論理を導入する際に社会科学を用いた。そこが画期的である。

 だが、現代は誰もが政治的人間になりうる時代だ。実際私もこのくらい政治的人間である自覚がある。このように社会を科学的に認識している人間だということである。私も大学で物理学を学んだので、世の中を論理的に眺めると哲学的というより社会科学的になるのかもしれない。実際、現代において誰もがポリティカルな配慮を求められており、少なからず政治的に生きざるを得ない。そんな現代社会を風刺しているのかもしれない。