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広田修の書評とエッセイ

砂川文次『戦場のレビヤタン』

 

戦場のレビヤタン (文春e-book)

戦場のレビヤタン (文春e-book)

 

  本書は戦争が頻発する地域に警備会社の社員として施設の警備に赴いた元自衛官の語りという構成をとっている。その近辺では常に戦争が起こっており、実際主人公が警備している施設でも自爆テロが起こったりする。この小説は、そのような戦地での生活を描いている点でも面白いが、そこにおいて主人公が戦争を「レビヤタン」、化け物としてとらえている点が興味深い。小説は基本的に人間の生活の次元を描くものであるが、ここにはその生活の次元よりも一つ高い次元の認識がある。それは戦争という社会的政治的事象の認識であり、生活というものの上層に広がる幾分抽象的で概念的なものの認識だ。ここには、主人公の社会的なるものへの目覚めがあり、それは具体的な戦地での体験を通して得られたものである。人間の成熟にとって社会的なるものへの目覚めは必須だと思っているが、主人公は一種特殊な状況下でその目覚めを通過したと言っていい。社会的なるものへのまなざしがきちんとあるのがとてもいいと思った。