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広田修の書評とエッセイ

李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』

 

 この小説を読んで、私はヴィクトル・ユゴーの『死刑囚最後の日』を思い出した。ユゴーは同著で死刑囚の心理を生々しく描き、死刑囚の苦悩や悲惨さ、ひいては死刑制度の非道さを説得力を持って訴えかけていた。文学によって政治的なアピールができることを如実に示す作品だった。李のこの作品も、セクシュアルマイノリティの苦悩や悲惨さを、体験や感情を描写しながら生々しく描いている。ひいてはセクシュアリティをめぐる社会意識に問題提起をしている。

 ユゴーの作も本作も、社会問題を個人の次元へと落とすことで、読者に共感の余地を切り開いている。社会問題は新聞記事のように書かれては他人事で済まされる。だが、このように生きた人間の体験として描かれると読者はかなり共感の程度が進むのである。完全に共感はできなくても、大いに共感できる。文学はその次元を開くことで、政治的なアピールを可能にする。