エッセイ的な日常に立脚した詩編が多い中、油断していると、不意に激情や、生死の問題などが現れはっとさせられる。エッセイ的に書かれた詩編といえども、著者の人生経験の蓄積に基づいて書かれているため、そこには澱のように吹き溜まったネガティブな感情や死の問題などが不意に顔を表す。人生は起伏に富んでおり、その多大な蓄積のもとに書かれた詩編であるため、単なる平凡なエッセイでは終わらないわけだ。
とはいえ、静謐で端正な筆致において伊藤の本領は十分に発揮されている。一つ一つ、間違えることなく積み重ねていくその制御された作風はとても好ましいものだ。だが、そこに不意に立ち現れる激しさや死の予感、そこに不穏なものも感じさせる。エッセイを浮上させ詩的空間を作成しながら、そこに混沌の予感をはらませている。なかなか油断のならない、読む者を慢心させない優れた詩集である。伊藤の詩集の中では今までで一番良いのではないか。