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広田修の書評とエッセイ

安利暉『灯心草』

 詩というものを「余白の多い文章」と定義するなら、本作のような箴言集もまた詩であろう。箴言集といっても、それほど詳細に書き込まれているのではなく、解釈の余地を多分に残す倫理的な断章である。詩においてこのように倫理性が直接的に表れてくることは珍しい。だが、余白の多さからするとこれは紛れもなく詩なのである。

 『灯心草』という詩集であるが、「灯」にしろ「心」にしろ「草」にしろ、それぞれに無量の意味が込められている。ある意味この三つの文字について敷衍していくのが本詩集に他ならない。タイトルの一つ一つの文字の意味をどんどん豊饒化していき、読み終わったときにタイトルを見返すとその意味の豊かさに改めて気づかされる、そういう構造を持っている。特に「灯」という言葉に込められた意味は非常に大きくて、この詩集は結局はそこに収れんするのではないかとも思われる。

 とにかく、このような倫理的な作品によって詩の領土が広がっていくのは頼もしいし好ましい。豊かな読詩体験だった。