albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ルイーズ・グリュック『野生のアイリス』

 

 2020年のノーベル文学賞を受賞した詩人の一番著名な詩集。特に目立った技巧があるわけでもないし、特に斬新な認識があるわけでもないが、作品世界の構築の仕方にすごさを感じる。庭とそこにおける神との対話という純粋な領域が設定されていて、もはやそこは聖域と化している。このように純化された作品世界をひたすら彫琢していくということ、ここにグリュックの詩作の特徴が感じられる。

 神との対話の中にグリュックの人生が混じったりするが、基本的にこの作品世界は他人の侵入を拒むものであり、その拒絶の具合、距離の取り方がとても巧妙である。アダムとイブがまだ楽園で暮らしていた時のような、そういう楽園に近いものがこの庭にはある。原始的で聖別されていて他人の侵入を拒む世界、それをひたすら美しく磨き続けるということ。このような詩のつくりかたがあるということを私はこれまで知らなかった。たいへん勉強になる本だと思う。