ある家族の記録を美しく描いた作品。小説が通常時間と格闘する泥臭いものだとするならば、この小説はその時間との格闘をうまくスルーしているかのようだ。小説が人生を描くことでその時間性を獲得するものだとするならば、この小説は人生を描きながらも時間性をうまく回避している、そのような印象を受けた。要するに、通常の小説にある人生=TIMEというものが存在しないかのように書かれているという意味でTIMELESSなのである。
母親は恋愛というものをせずに形だけの結婚をする。そこから生まれた子供もどこか家族とのつながりが淡白である。ここでは、南海トラフ地震後の世界が描かれたりして時間は経過しているが、その時間との確執のようなものはほとんど感じられないのである。時間との確執を感じさせないで小説を書くことで、小説作品が装飾品のような美しさを獲得するに至っていると思う。泥臭さが一切感じられないのである。極上に美しい小説だった。