albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ガルシン『あかい花』

 

 精神病や戦争、権力による抑圧の悲惨さを告発した小説。小説の良いところは新聞記事とは異なり、そこに無駄な細部があるということである。その無駄な細部こそが、苦しんでいる人の置かれた状況や心理の機微の詳細を描くことができ、より問題の射程を広げることができ、社会問題の告発をヴィヴィッドに行うことができる。

 だが、この小説は「告発」なんて公的なことを行っているのだろうか。なんというか、もっと原始的な痛みを発する声のように思える。現実の悲惨に苦しみを感じ、「痛い!」と叫ぶ声、それこそがこの小説なのではないだろうかと思われる。とにかく現実は悲惨だ、まずはそれによって傷ついた俺の心の声を聴いてくれ。そういうプリミティブな衝動に突き動かされて書いた真摯な小説ではないだろうか。だからこの小説にはいささかの冷笑的なところも感じられない。非常に現実に即し、現実と距離を置かずに書かれた作品だと思う。