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広田修の書評とエッセイ

乗代雄介『旅する練習』

 

旅する練習

旅する練習

 

  本作品では、サッカー選手になることを夢見る小学六年生の女子の活き活きした情景が活写される。だが、この少女はいずれ事故にあってしまう。それだけではなく、会社に内定が決まったのに内定の辞退を迫られる大学生などが描かれる。ここで描かれているのは人生の普遍的な物語である夢の挫折・夢の喪失という物語だ。

 夢に向かって突き進んでいるころ、少年や少女はとても光り輝いている。その光輝を丁寧に描いておきたい、きれいに保存しておきたいという創作の衝動はわかる。だがそれは夢を喪失したときの悲劇を一層増大させてしまうのだ。夢に燃えている少年少女は美しいから描きたい、一方でそれを描けば描くほど、その後の悲劇は際立ってしまう。そのようなジレンマを提示している作品のように思える。

 途中挿入される旅の情景描写はとても美しく、筆者の地の筆力を十分伝えてくる。基本的な描写こそがすべての文学の基本にあることを改めて気づかせてくれる。