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広田修の書評とエッセイ

閻連科『年月日』

 

 小説全体が人生を比喩しているという意味で、ヘミングウェイの『老人と海』に比肩するくらいの名作である。『老人と海』が老人と魚の戦いによって人生の挫折と努力を描いたとするならば、本作はそれに加えて人生の「後世に何かを残す」という側面も比喩している。

 本作は、干ばつの際に一人村に取り残された老人が、悪戦苦闘して、最終的には自らの命を失いながらも、一本のトウモロコシの苗を育て上げるという内容である。老人のネズミたちや狼との戦いは人生の挫折や努力を比喩するだろうし、トウモロコシを残すというのは人生の子孫などを残すことを比喩するだろう。その、人生の基本的な側面について寓話的に豊かに描くということが本作の優れた点なのである。

 『老人と海』が名作として色あせることはない。だが、それに加えて本作はそれを超えるような人生を比喩する名作であり、何より後世に何かを残すという人生の側面についてはとても考えさせられる。