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広田修の書評とエッセイ

村田沙耶香『信仰』

 

 短編・エッセイ8編を収めたもの。基本的にカリカチュアライズの手法をとっている。今現実に起こっていることについて、一部の特徴を誇大化して見せる。それはすごく哲学的なことのように思うのだが、本作においてカリカチュアライズは小説の面白さを生み出している。ある意味、哲学的であることは小説的な面白さを生み出すのかもしれない。思考実験は哲学的である以前にプロットとして我々を楽しませる。

 悪徳商法が蔓延している世界であくまで原価を指摘し続けて幻想を破壊することが、逆に一種のカルトとなってしまうという表題作は出色である。今現代の世界において商品は幻想を売っている側面がある。それを誇大化してみせることで小説的な面白さを生み出すとともに、哲学的な問題設定の広さを示してくる。確かにこれを小説として消費してしまうことも可能だが、哲学的な思考のよすがとして様々な思考を導くっものとして受容することも大事かもしれない。