albatros blog

広田修の書評とエッセイ

シュペルヴィエル『海に住む少女』

 

 シュルレアリスムともとれる幻想的な短編集。作品世界の制作において現実世界とは異なるルールを作り、幻想的な飛躍を生み出す。そしてその幻想的な世界で生きる人間たちはとてもリアルに描かれるのである。表題作が一番感銘深いのでそれについて書くと、時間を失った海の上の奇妙な町で一人少女が生きている。そこにおいて少女は成長せず、食料は自動的に与えられる。そして少女はごく普通に生きていく。

 世界のつくりかたが透明感に満ちていて、明るい幻想が展開されているのがわかる。幻想的な世界はどれも美しく、幻想が叙情を生み出している。今でいえばショートショート集といったところだろうが、作品発表当時は斬新な手法だったのではないだろうか。シュペルヴィエルが詩人であったこともこの作品の成立には関係していて、その優れた想像力とアイディアやウィットがこの作品には生きている。アイディアやウィットを美しく展開するのが詩人の腕の見せ所だ。