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広田修の書評とエッセイ

滝口悠生『水平線』

水平線

水平線

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 広い世界で生きるのは大事だ。それは自らの内面と外面を豊かにする。そんなことを改めて感じさせてくれる小説だ。滝口らしく、登場人物の人間関係や血縁関係、歴史的な出来事と現在のつながりなどが緊密に描かれている。この連関するものを緊密に描く筆致というものにおいて滝口ほど優れた作家は少ない。そのように緊密に連携していくことで、硫黄島の過去の記憶が現在に強くリンクされていく。第二次世界大戦の舞台となった硫黄島の過去と現在が緊密に結びつく。

 普段我々はとても狭い世界で生きている。狭い世界の中でくだらない足の引っ張り合いや競争、政治ごっこなどに明け暮れている。狭い世界の常識を世の中のすべてだと思い込み、他の常識が受け入れられなくなってしまっている。これからそんな人材は必要とされなくなっていくだろう。必要なのは、広い世界を知っている人材だ。自分の属する領域とは異なる領域とも接点を持ち、様々な体験をし、読書などで幅広く知見を深めている人材だ。東京から硫黄島へ向かう登場人物は、まさに自らの世界を広げていこうとする人物である。