albatros blog

広田修の書評とエッセイ

モディアノ『失われた時のカフェで』

 

失われた時のカフェで

失われた時のカフェで

 

  ルキという謎の女性をめぐる多角的な断章集。彼女を愛する様々な男性、そして彼女自身によりルキの謎は少しずつ明かされていくがそれでも全容はつかめない。それぞれの断章があいまいで光に満ちて浮遊するタッチであり、この作品を読んでいると印象派の絵画を読んでいるかのような気分になる。少しずつ謎が明かされていくという構成がスリリングであり、それが様々な角度から照射されていくので読むものとしてはかなり幻惑される。

 この光に満ちた浮遊するあいまいなタッチによってぼんやりと描き出される魅惑的な女性であるルキは、その描かれ方により一層魅力を増しているように思われる。また、彼女について欲望のまなざしのもと描かれているからかもしれない。一人の女性というものを描くのに、このようなタッチを採用することで独特の魅力に満ちたアプローチが可能となっている。パトリック・モディアノ、まったくあなどれない作家だ。