albatros blog

広田修の書評とエッセイ

中上健次『水の女』

 

  短い作品が多く、また短い作品においては作品の設定が貧弱で男女の交接ばかり描いているため、比較的長くて舞台設定がしっかりしており、登場する女性も独立している「鷹を飼う家」を中心に感想を述べる。本作において、ヒロインは気の強い女であり、家族の他の成員に負けることもなく、自分の意思をしっかり表明し、男の性の誘いもきっぱり断る。この「女の独立」を描いているのがとても良かった。「女の独立」は合理的で自律的な個人というものとは異なる。むしろ不合理で感情的な主に怒りや自尊心に基づく独立だ。民主主義の構成員として社会参加する個人などでは毛頭なく、この土俗的で封建的な世界の中でもしっかりと己の感情に正直に直立する強さである。日本の女性というと、どうしても男性を立てるとか姑に気を遣うとかそういう従属性ばかり目立つが、本作ではヒロインはそういうものを切り離してしっかり感情的に独立していた。それがとても私の眼には美しく見えた。