albatros blog

広田修の書評とエッセイ

アンナ・カヴァン『ジュリアとバズーカ』

 

ジュリアとバズーカ

ジュリアとバズーカ

 

  非常に病的な視点から書かれたゆがんだ不条理な世界である。世界がとんでもなく陰鬱なものであるかのように描写される一方で、世界が光り輝くものであるかのように描かれたりする。存在するものはすべて不確かで、どこにも本当に存在するものなどない。私の存在もあなたの存在も世界の存在も不確かだ。

 ここには「心の可塑性」のようなものが描かれている気がする。カヴァンはヘロイン中毒者でヘロインによる心の変化もあると思うが、そもそも心が不安定で移ろいやすいタイプの人間だった。心が陰鬱になれば世界も陰鬱になるし、心が光り輝けば世界も光り輝く。心が不確かであれば世界の存在も不確かだ。カヴァンの心は非常に可塑的であり、一定の安定した形状を取らない。この可塑的な心により描かれる可塑的で波の激しい世界。それは非常にいびつで不条理なものである。