albatros blog

広田修の書評とエッセイ

2020年の本ベスト10冊

 2020年に読んだ本でよかったものを挙げていきます。

 

1.ナオミ・ザック『災害の倫理』

 災害において倫理学の理論はどのように応用できるか。応用倫理学の非常にタイトにまとまった優れた本。

2.斎藤環・與那覇潤『心を病んだらいけないの?』

 現代日本社会を縦横無尽に斬っていく。今社会はどうなっていて何が問題なのか。大きく広げられたアンテナでとらえられた事象を鋭利に批評していく。

3.ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』

 文章で奏でる壮大な交響曲。ストーリーがどうとかではなく、言語そのものの美しさを感じ取れる。読後に幸福感が訪れること間違いなし。

4.本田由紀『教育は何を評価してきたのか』

 著者の非常に鋭利な頭脳に感服した。日本社会を分析する手段が優れている。政策的な提言は生煮えな感じがしたが、非常に示唆に富む一冊。

5.小谷田奈月『神前酔狂宴』

 若者を描くのがうまい。ラノベっぽい世界だけれど十分純文学。興奮と躍動に満ちた小説である。

6.佐々木毅アメリカの保守とリベラル』

 アメリカの保守とリベラルについて漠然としたイメージを持っている人は多いと思うが、著者はその歴史的変遷をつぶさに追っていく。スリリングである。

7.吉田徹『アフター・リベラル』

 リベラルが後退した現代世界がどのように成立してどんな問題をはらんでいるか。重厚で新書のレベルを超える優れた一冊。

8.アンナ・カヴァン『氷』

 なんだこの異常な世界は、と思うが、異常であると同時に極めて美しい。カヴァンだからこそ書けた特異な一冊。

9.宇田川元一『他者と働く』

 そもそも他人はわからないもの。わからないなりに他人のナラティブを想像し、他人と自分を架橋することで仕事をうまく回していく。社会人必読。

10.蔭山宏『カール・シュミット

 ナチスに加担して特異な思想を持った政治学者であるカール・シュミットの入門書。手ごろでおすすめ。