albatros blog

広田修の書評とエッセイ

2019年に見た映画

 さて、年の瀬ですので2019年に見た映画をまとめようと思います。

 

是枝裕和『三度目の殺人』

カタルシスのない現代風の法廷サスペンスだが、犯人の哲学的な思想が面白かった。生まれてこなければよかった自分がどう生きるか。非常に倫理的な問題を提起する作品だった。

山田洋次『下町の太陽』

女性の自立や恋愛結婚といった現代的な価値観がすでにこの時代に現れていたことが面白かった。筋はありきたりかもしれない。

ロベール・ブレッソン『抵抗』

ドイツ占領下フランスでゲシュタポに逮捕された主人公の脱出劇。実話ベースのためかなりリアルで緊張感があった。一切の修飾を排した禁欲的な構成が素晴らしかった。

上田慎一郎カメラを止めるな!

非常に緻密に作り上げられた作品だった。こういったコメディもありなんだな、と。

スタンリー・クレイマー『招かれざる客』

まだ黒人差別が根強かった1960年代、結婚しようとする黒人と白人の親たちの心の葛藤がリアルに描かれる。現代ではこの問題はだいぶリアリティを失っているだろうが、似たような問題はたくさんあるだろう。普遍的

ルイス・ブニュエル『皆殺しの天使』

ホラー的要素も感じられる不条理劇で面白かった。なぜか屋敷から出られない人々の崩壊していくモラル。示唆に富む映画だった。

ベルイマン秋のソナタ

母と娘との確執がドラマチックに演出される。身勝手な母親に翻弄され、娘の憎しみは積もっていく。父親と息子にはこの類の確執が少ないと思う。母娘だからこそだろう。

宮崎駿風立ちぬ

宮崎の飛行機愛に満ちた作品。仕事と家族という現代的なテーマも含まれていると思う。果たして菜穂子は幸せだったのか、という問いを残す。作品としては美しく終わらせているが。

ミシェル・アザナヴィシウス『アーティスト』

時代の移行期にはこのような新旧交代劇がつきものなのかもしれない。老兵は去り後進に道を譲る。だがそれはそれほど単純な出来事ではなく、関わった人たちの複雑な思いを引き起こす。面白かった。

ロバート・ベントン白いカラス

白い肌で生まれてきて自分が黒人であることを隠してきた元大学教授と不幸をたくさん背負い込んだ女の恋の話。なかなか複雑で充実した内容だった。

リュック・ベッソン『レオン』

殺し屋と少女との間の緊迫した心の交わし合い。割と単純な作りだったが胸にグッとくる作品だった。

山田洋次『おとうと』

皆から除け者にされるアウトサイダーとしての弟と、姉・姪との愛情の物語。山田洋次が愛してやまなかったダメ庶民。それと対置される非情なエリート。とても良かった。

ルイ・マル死刑台のエレベーター

スリルのあるサスペンスの古典といったところ。随所に工夫が凝らされていて楽しめた。