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広田修の書評とエッセイ

オニール『喪服の似合うエレクトラ』

 

喪服の似合うエレクトラ (岩波文庫)

喪服の似合うエレクトラ (岩波文庫)

 

  この作品では、不倫の愛や近親者の愛憎だけでなく、殺害や自殺など死がたくさん現れる。古典ギリシア悲劇に材をとっているだけあってそのような構成となっているのだろうが、それにしても愛憎に死と劇的な要素満載で満腹感を得てしまう。だが、もちろん本作品は強度の強いモチーフを多用することにより安易に劇を作り出そうとするものではない。そこには微細な心理描写やト書きの充実など、綿密な造りこみがなされていて、そこにこそノーベル賞作家の手腕が認められる。

 本作品では近親者の死がテーマになっている。屋敷の娘は結局結婚できなかったのだが、それは近親者がたくさん死んだという世間体よりも、近親者の死による喪失感や傷が原因だったと思われる。近親者が多数死ぬ筋書きを用意しながら、その意味を問い詰めていくことがオニールの目的だったのだと思うし、そこにこそギリシア古典悲劇を現代によみがえらせる意味があると思う。